千字文の文章は、今から1500年近く前、周興嗣(しゅうこうし)が、梁(りょう)の皇帝・武帝の命により、王羲之の書を集め作ったとされています。一夜の内に綴り終えましたが、苦思のあまり一夜にして頭髪が真っ白になったと伝えられています。
千字文は「天地玄黄、宇宙洪荒・・・」と四字で一句を成し、その間に韻を踏み、その句数全部で250句、全文の字数千字で出来ており、世にこれを「千字文」といっております。行書で書いたものを行書千字文、草書で書いたものを草書千字文と呼びます。
その述べることは、宇宙の法理より始まり、地理、歴史、政治、道徳に至るまで、細大網羅して遺さず、その用いられた一千字の内、一字も重複がないことで、作者周興嗣の苦心を窺うことができます。
『勅員外散騎侍郎周興嗣次韻』(チョクインガイサンキジロウシュウコウシジイン)
勅員外散騎侍郎は、中国の唐の時代の役人の官職名。その官職の周興嗣という人が、王命を受けて、他の文の韻を踏んで千字文を作る。
『天地玄黄 宇宙洪荒』(テンチゲンコウ ウチュウコウコウ)
天は玄(暗く)、地は黄色である。天文上の天地の色を示している。宇宙は、洪荒である。洪は大きく、荒は広いこと。天地の間は限りなく大きく広い。
『日月盈昃 辰宿列張』(ジツゲツエイショク シンシュクレッチョウ)
盈は満ちること。昃は傾くこと。辰は天の十二宮。宿は二十八宿。共に星座のこと。
日は東より出て、西に傾き、月は欠けてまた満ちる。星座は日月と共に天に列なり懸かっている。
『寒来暑往 秋収冬蔵』(カンライショオウ シュウシュウトウゾウ)
寒さが来れば暑さが往き、春夏秋冬の気候の循環はいつまでも限りなく変化している。春夏にまいた五穀を秋の日に取り蔵に納め冬が来る。絶え間ない季節の移り変わりを言っている。
『閏餘成歳 律呂調陽』(ジュンヨセイサイ リツリョチョウヨウ)
閏は閏月のこと。律呂とは音楽のこと。
陰暦には四年に一回閏月をおいて年を整え、音楽の調べ(リズム)によって、天地間の陰陽を整える。
中国(支那)は昔、音楽の調べ(リズム)によって、天地間の陽気を整えたことを言っている。
『雲騰致雨 露結為霜』(ウントウチウ ロケツイソウ)
地上の水気が立ち上って雲となり、空中で冷気にあえば雨となって地上に降り来る。(夏が過ぎて秋になれば)空中にある水気は露となり、露が寒気にあうと凝り固まって霜となる。
天地間の巡り巡る因果的な理を言っている。
『金生麗水 玉出崑岡』(キンセイレイスイ ギョクシュツコンコウ)
昔中国では麗水という川の流れより多くの砂金が取れたために、金は麗水より生ずるという。崑岡は中国の西方印度の山の名前。その山より水晶、琥珀、瑪瑙などを産出する。自然の妙を説いている。
『劔號巨闕 珠稱夜光』(ケンゴウキョケツ シュショウヤコウ)
地中から産出した鉄でできた名剣を『巨闕』といった。また珠は海中から得た真珠の類であり、夜も輝く玉を『夜称した称(稱)した。趙(チョウ・4000年ほど昔の国の名)の宝とされた剣と玉のことを言っている。
『果珍李柰 菜重芥薑』(カチンリダイ サイジュウカイキョウ)
果実は草木から生ずる宝であるが、その中でも李(すもも)と柰(なし)は最も珍しいものである。また野菜も地に生ずるが、中国では、芥(からし)と薑(しょうが)を第一品として重んじている。